「学び直す」ことが勉強の本質
勉強法や記憶術の本には必ずと言っていいほど出てくる重要ワードとして「エビングハウスの忘却曲線」というものがあります。これはドイツの心理学者エビングハウス氏の実験によってデータ化された「時間の経過に伴う忘却の度合い」をグラフにしたものです。
忘却曲線について「人は覚えたことを1時間後には56%忘れ、1日後には74%忘れる」などと説明されている本も多いのですが、これは忘却曲線の解釈としては実は間違いです。忘却曲線のグラフの横軸は「学習後の経過時間」ですが、縦軸は単純な「記憶保持率」ではなく、「節約率」というまったく別の指標なのです。
節約率とは、一度勉強して忘れてしまったことを再び覚え直すのにかかった時間が、最初に覚えたときと比べて何%削減できたかという数字です。そのため、忘却曲線の解釈としては「一度覚えて忘れてしまったことを1時間後に覚え直すためには、最初に覚えるのにかかった時間の56%の時間を要する」と言ったほうが正確です。
エビングハウス氏がただ「時間が経ったら忘れる」ことを言いたかっただけであれば、節約率という特殊な概念をあえて持ち出すまでもなく、記憶保持率のグラフを作ればそれでよかったはずです。
ここであえて節約率という指標が使われているのは、勉強は「忘れること」「学び直すこと」を前提として取り組むべきだということを、エビングハウス氏が特に強調したかったからではないでしょうか。
「ある暗記事項に対して一度でもふれた経験があれば、次回以降またふれたときに習得にかかる時間が短くなる」ということこそが本質なのです。
ここから導き出せる教訓は、
①人は忘れる生き物だから、忘れたら覚え直すことを前提として勉強すべき
②忘れてしまうことに対して落ち込んだり、悲観的になったりする必要はない
③「忘れて覚え直す」ことは決して無駄な作業を何度も繰り返していることにはならず、「また覚え直すのに必要な時間」は確実に短くなっている
ということです。
これを意識できているかいないかで、勉強がうまくいかない場面での気の持ち方が大きく変わってきますし、勉強の行動指針にも大きく影響します。
勉強の過程で「何度覚えても忘れてしまって、自分はなんてダメなんだろう」などと考えてしまう人も多いものですが、人は忘れてしまうものだと割り切ってとらえることができれば、必要以上にストレスをためたり、ネガティブな気持ちに陥ってしまったりする場面は確実に減らせます。
入試や資格試験に向けた長いスパンの勉強においては、スランプや挫折はつきものです。そんな中でも勉強を継続していくためには、思い切った開き直りも必要なのです。
今回の記事は、鈴木所長の新刊『東大→東大大学院→600個超保有の資格王が教える 点数稼ぎの勉強法』(ダイヤモンド社)の一部内容をアレンジしてお送りしました。
ぜひ本書もあわせて読んでみてくださいね!