2023.07.11

試験勉強も試験本番も、「じっくり」より「さらっと」

過去記事「勉強では『わからないところで必要以上に止まらない』ことが重要」などにおいて、試験勉強ではひとつの箇所に時間をかけすぎるよりも、全体を素早くおさえることを重視すべきだと繰り返し述べてきました。
これは試験勉強の場面だけでなく、試験本番でもそのまま当てはまることです。つまり、試験本番で問題を解く際も、試験勉強と同様、「じっくり」より「さらっと」を心掛けよう、というのが今回のお話です。

もう少し具体的に言うと、まずは全体を「さらっと」一通り解いて、見直しの2周目で「じっくり」吟味します。最初からいきなり一問一問を「じっくり」解いていくのではなく、「さらっと」+「じっくり」の2段構えにするのです。
一般的によくいわれる、試験問題を解くうえでのアドバイスとしては、たとえば制限時間60分間の試験であれば、「解答は50分で済ませ、残りの10分は見直しにあてる」ような時間配分がよいとされます。
しかし私は、「30分で全体をさらっと解いて、残り30分を『見直し』と『じっくり解く問題』にあてる」くらいがちょうどいいと考えます。じっくり挑むべき問題は1周目ではあえて深追いせず、まずは「全体を大筋で解き終える」ことを最初のミッションとします。

1周目からいきなり「じっくり」解こうとはしないほうがよいという第一の理由は、最初からじっくり取り組もうとすると、試験時間内に全問解ききれない可能性があるからです。
また、試験の序盤からじっくり考えて頭を使いすぎると、後半でだんだん疲れてきたり、集中力が切れてきたりします。その結果、思考の精度の低下や、注意力が散漫になってケアレスミスにつながるなどの弊害が出てくるのです。
そのため、「最初からじっくり」ではなく、集中力を高く保てる序盤~前半のうちに全体を一通り手早く解ききるようにすべきです。
具体的には、たとえば「次の選択肢①②③④のうち、内容が誤っているものをひとつ選べ」という形式の問題で、もしすべての選択肢を吟味するまでもなく途中の選択肢までで解答が絞れたら、それ以降の選択肢はいったん無視してすぐ次の問題に移るといった、「省エネ」で解いていくテクニックも重要です。吟味を省略した選択肢は「見直し」の2周目で「念のため吟味する」程度でじゅうぶんです。

試験問題を一通り「さらっと」解き終わることにより、「ひとまずは答案の大部分を一応つくり上げることができた」という事実が、気持ちに余裕をもたせてくれます。「1周目はさらっと」を心掛けることで、他の受験者よりも早く「一応のアウトプットを完成し、ひとまず状況的に落ち着いた状態」に到達することができるのです。
この段階で一度冷静になって気分を一新してみることで、2周目で「1周目で明らかなケアレスミスをしていたことに気付けた」とか「1周目では思いつかなかった解き方や思い出せなかった用語が浮かんできた」ということが起こる可能性も高くなるはずです。

「巧遅は拙速に如かず」という有名な言葉があります。「出来がよくて遅いよりは、出来が悪くても早いほうがよい」という意味の、中国の格言です。
この言葉、「孫氏の兵法」が元ネタであるように誤解している人が多いのですが、孫氏の言葉は正確には「兵は拙速を聞くも、未だ巧久を賭ざるなり」で、ちょっと異なります。
「巧遅は拙速に如かず」の出典は、謝枋得という中国の南宋時代の学者が書いた『文章軌範』という書物です。そしてこの本はなんと、科挙(中国の官吏登用試験)の受験参考書とでもいうべき書物で、まさに科挙の試験対策のアドバイスとして「試験会場では、試験時間には限りがあるから、巧遅より拙速が大事」だと書かれているのです。
受験業界では700年前から「じっくり取り組むより素早くやるべき」ことが常識になっている(!?)というのはとても興味深い事実です。

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